名護のランドマークに登ろう~名護岳345メートル編~
恐らく人類が手にした初めての道具は棒であろう。その用途は枚挙にいとまがない。何かを指し示す。遠くのものをこちらに引き寄せる。体重を支えるつえにもなる。アウトドアでは物干しざおや釣りざおになる。攻撃のための武器にもなる。戦士=こん棒、魔法使い=ひのきの棒は標準装備。綿棒だって棒だし、箸は英語でチョップスティック。棒とはそんなにも身近な存在なのだ。
―さて、今回は僕と棒との出会いのお話。
名護の市街地を中心に仕事している僕にとって、振り向けばいつもそこに名護岳がどん、と構えている。毎年1月下旬に開かれる名護桜まつりで知られるカンヒザクラの名所、名護城公園は名護岳のふもと。この山は名護市のシンボルであり、ランドマークと言えるだろう。名護のどこからでも見える山なので、きっと頂上からは名護全体が見渡せるに違いない。登ってみるか。そう思い立った僕はゴールデンウイーク期間中の4月某日、一路、名護岳山頂を目指したのである。
名護岳の登山口に行くにはまず名護城公園に入り、中腹の県立名護青少年の家まで行く必要がある。
名護青少年の家では受付に行き、名簿に名前と電話番号、車のナンバーを記入する。これは入山したことの証明。下山したら再びここに寄り、「ちゃんと帰ってきたよ」とチェックを入れるのだ。ちなみにハイキング・登山の利用は無料だ。
また、登山道とハイキングコースを示したマップももらえた。ドラクエみたい。これから山を攻略するのだ、と少しテンションが上がる。「どれどれ…」
こういうのを検討するのは好きな性分。「反時計回りで右からぐるりと山頂を回り、左から下りるコースにするか…(マップ上赤い矢印)」ひとりでさみしいのであえて声に出してつぶやいてみる。Aコース→登山道→頂上→登山道→車道→A・Bコース途中から合流→青少年の家、というルートになる。
午後2時すぎ、青少年の家をスタート。まずはキャンプ場を抜ける。
ここから入るらしい。最初に登った伊江島タッチューと違って本格的!
細い道を上ったり下ったり。アップアップ、ダウン、アップアップアップという感覚で歩みを進めていく。「アップ」という言葉を連ねるとなんか必死感出るな。実際には多少息が切れている程度で順調に前へ前へ。
イラっとしたのはクモの巣。細い道の幅がちょうどいいのか、きれいに道を横切るよう、そこかしこに網が張られている。網の中心付近ではハングリースパイダーどもがカサカサと音を立て、その8本足をもぞもぞと動かしている。(※気持ち悪いので写真は掲載しません)
しかも、巣が張られているのはだいたい僕の顔の位置。これに何度もかかって気分が悪くなった僕は、むやみにつばを吐きだしてしまう。
何かないか…辺りを見回す僕。そこに頼れる存在はいた。そう、棒だ。カリイは落ちていた棒を手に入れた。テッテレー!…ごめん、今のはドッキリの効果音だった。
とにかく、棒を振り回しながら前へ進む。棒の威力はすごい。クモの巣をどんどんなぎ払える。クモナギ剛、という架空の人物が一瞬頭に浮かんで消えていった。
クモ「やめてくだせえ、あっしらが何をしたっていうんですか!」
僕「人間様のお通りだ。どけどけ」
クモ「ああ、必死に張った巣が…またイチからやり直しでさあ」
僕「クモに生まれた自身の存在を憎め」
クモ「失敗だあ」
クモ「翼がほしい…」
僕「それハングリースパイダーじゃなくてピンクスパイダーでしょう?」
…ひとりなのでそんなコントも想像する。
うっそうとした亜熱帯の森の中、ウグイスの声が断続的に降ってくる。日差しはさえぎられ、そこまで肌を刺すような暑さは感じない。やがてAコースは階段ゾーンに入った。ここからが難所。基本的にスロープだったこれまでと違い、つねに段差分の体重移動を強いられる。
Aコース登山路分岐点にたどり着く。ここからはいよいよ山頂までの登山路だ。
休憩も挟みながら。マグの緑茶の冷たさがうれしい。
さらに階段は続く。つーか右回りコース、ほぼ階段じゃねえか、とイライラする。
それでも黙々と足を動かす。名護岳手前の登山路上にある前岳を超えたらしばらく下り。そうしてまた上り。この間、延々と階段は続いた。
―やがて、階段の先にまぶしい空が見えた。来た。頂上の予感。現金なもので、その光景を前に、ダラダラ歩いていた脚に力が宿る。進め。進め。
着いた。頂上だ。ここまで約90分。うち20分は階段と格闘したな。結構な達成感。思わずその場に座り込んだ。
頂上は東海岸から西海岸まで見渡せる絶景。天気にも恵まれた。
そして三角点とパチリ。アディダスのトレッキングシューズもこの日がデビュー戦。
さて、そろそろ下山するか、と下山口に向かいかけた僕、慌てて戻った。…棒!棒!これがなきゃ!
結構ダイナミックな下り道。ロープをつかみながら慎重に下りる。やっぱこちら側から登ってくれば良かったな。
行きはよいよい、帰りは怖い。
車道を経てA・Bコース共通→A・B・Cコース共通の下りへ合流。途中には沢あり、岩場ありで、やはり時計回りで登った方が楽しめるコースだという印象を受けた。
シダ類が圧巻。
さあ、ゴールは近い。
午後5時前にハイキングコース入り口に到着。ほぼ3時間のコースだった。自分で自分をねぎらいたい気分だ。一人だし。
ここで僕は手元の棒に目をやる。ここまであまたのクモの巣を払ってくれた「蜘蛛の槍」的な棒。登山のパートナーを務めてくれた棒。僕にとってまさしく「相棒」だったな。僕は感傷的な気分になる。(記念に持ち帰ってもいいな…)
10分足らずで登った伊江島タッチューに比べたら、名護岳は結構本格的で、頂上の達成感も段違いだった。アップダウンやロープを使う難所はあるけど、小学校低学年の子も両親と登っていたので(すれ違った)、より自然派のファミリー向けアスレチックとしてもおすすめだ。個人的にはぜひ、時計回りで登ることを推奨するなあ。
…あ、棒はやっぱ要らないので捨てました。